非上場企業・自社株の相続対策

こんにちは。行政書士の古川久晃です。

本日は非上場会社・自社株の相続対策について考えてみます。

よくあるお悩みとしては「後継者に引き継ぎたいが、株式の評価が高くて贈与できず困っている」「まだまだ現役でいたいが、将来もし認知症になったら、会社経営がデッドロックに陥ると聞いて困っている」の2点かと思います。

それぞれについて、考えうる対策を解説して行きます。

◆後継者に引き継ぎたいが、評価額が高くて困っているケース◆

①普通に贈与

「株式の評価が高くて、贈与できないから困っている」という場合についての対策です。

非上場株の評価は「配当・利益・純資産」で決まって来ます。この3点の評価を低くできれば、  株の評価が下がって贈与しやすくなる訳です。

「配当」については、出していない企業が多いと思いますので割愛します。もし仮に出しているなら、今後は配当を出さないようにしましょう。

「利益」について、この部分が最も対策を打ちやすい部分です。考えうる手段を一覧にしました↓

・従業員への決算賞与の支給増額 ・役員退職金の支払 ・大型設備投資 ・固定資産の有姿除却 ・不良在庫の廃棄処分 ・不良債権の放棄

どれも「一時的に損失を出すことで、利益を圧縮し、株の評価が下がったタイミングで贈与」という手段ですね。

「純資産」についても対策が可能です。

・特別配当、記念配当の実施 ・従業員への退職金支払

「配当は出すなと言ったじゃないか!」という声が聞こえて来そうですが、非経常的な配当である「特別配当・記念配当」については、株価計算に影響しません。

ですが、どの手段についても「一時的に損失を出し、バランスシートや損益を悪化させる」方法ですので、あくまで「無理のない損失プラン」を組んでからの実施をお勧めします。

②事業承継税制を使って贈与

 もし「株の評価が高すぎて、評価引き下げ対策をしても焼け石に水」という状態でしたら、この制度の活用が最も効果が高いです。

事業承継税制を使えば「株を贈与しても、全く贈与税が掛からない」というメリットがあります。

デメリットとしては「要件が厳しい」「手続が非常に煩雑」「定期報告が必要」「もし要件を満たせなくなれば、利子付きで贈与税の支払を求められる」というものがあります。

特に「将来、要件を満たせなくなったとき」は恐ろしい事態になるので、もし活用する場合には、専門の経験ある税理士さんと綿密な打ち合わせを行ったうえで実施することが必須です。

リスクも大きいので、基本的には「他の手段ではどうにもならない」場合におすすめします。

③相続

生前に贈与するのではなく、相続になってからの対策も考えられます。

「金庫株にする」…後継者に相続させて、その後継者から会社が株式を買い取るという手段です。

「株の評価が高くて贈与できない。後継者に遺言で相続させると、相続税が大変」というお悩みについては「相続税の納税資金を、後継者が現金で確保できれば問題ない」訳なので、その視点での対策ということになります。

相続税が掛かる場合で、相続後に会社に株式を買い取ってもらうと、譲渡益に対する課税が譲渡所得税になったり、取得費加算の特例を使えるといったメリットがあります。

要は「相続後なら、色々なお得な制度を使って会社に株式を売れる」というイメージです。

注意点としては「金庫株にできる限度額は、分配可能額の範囲内」に限られるので、資本金やバランスシートを考慮しつつ、税理士さんへ相談されてみることをお勧めします。

④種類株式の発行

「議決権制限株式」を発行するという手段です。

株式の評価に、議決権の有無は関係ない」という仕組みを活用する方法となります。

例として「子どもが2人。内一人を後継者にしたい。資産は自社株のみ」というケースを想定してみましょう。

●子A:後継者 子B:後継でない 自社株評価:1億 株数:100株●

この場合の相続ですと、仮に遺言で「株式を全て子Aに相続させる」と書いていても、子B→子Aに対して遺留分侵害額請求(このケースでは2500万円)を起こされるリスクがあります。

子Aに2500万円を払える資金があれば無問題ですが、用意できない場合も多いでしょう。

だからと言って遺留分に配慮して「75株をAに、25株をBに」と遺言すると、将来の会社運営に支障が出るリスクがあります。

このケースで対策として使えるのが議決権制限株式です!

「議決権の有無は、株式の評価額に関係ない」ので、上記のケースで株式の構成が「普通株式75株(評価7500万円)、議決権制限株式25株(評価2500万円)」だとすると「普通株式をAに相続させる。議決権制限株式をBに相続させる」と遺言すれば、遺留分の問題は生じなくなる訳です。

Bに渡った株式には議決権がないので、基本的には経営上の問題は生じません。

※もしAの経営がめちゃくちゃだと、Bから訴訟を起こされるリスクはあります。

では、議決権制限株式を発行するにはどうしたらいいのか?

これについては定款変更(これまでに発行したことなければ)になるので、株主総会の特別決議(総株主の半分以上出席、4分の3以上の賛成)が必要となります。

「株式はほぼ100%現社長と後継者が持っている」という場合には使いやすい制度です。

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もし将来認知症になってしまうと、会社経営がデッドロックに陥ると聞いて困っているケース◆

「現社長が株式の大半を持っているが、認知症になってしまった」

これが起こると、かなり恐ろしいことになってしまいます。認知症になると株主総会での議決権が行使できなくなりますので、何もしないと会社経営がデッドロック(何もできない)してしまいます。

もし「既になってしまった」という場合には、法定後見制度を利用するしか方法がありません。

このケースだと、おそらく弁護士さんが後見人に選任されるので、その指導のもとに粛々と進めて行くことになります。

ですがこれだと「一時的に経営が止まってしまう」「以後、自由な経営はできなくなる」という問題は残ったままです。

このリスクに対処するには「自社株を、後継者に家族信託して譲っておく」という方法が最適です。

「まだまだ後継者が未熟で、全部任せるのは不安」「まだまだ現役でいたい」「後継者がきちんと経営できるか微妙」という声が聞こえて来そうですが、対応策はあるのでご安心ください。

株式を後継者に信託しても、議決権について「指図権」を設定することが可能です!

要は「私が元気な内は、私の指示通りに議決権を行使しなさい」と言う権利を設定しておくことができるのです。

家族信託契約の中で「私が元気な内は私の指示に従え! もし認知症になったらお前に任せる!」という条項を設定しておくことで「今すぐに経営を任せるのは不安」を解消し「まだまだ現役でいたい」という望みを叶えることができます。

では、家族信託するにはどうしたらいいのか?

行政書士古川久晃事務所に依頼するのが安全確実で一番です!

しかし、遠方の方はそうもいかないと思いますので、お住まいの県の行政書士会に「自社株の家族信託に詳しい行政書士を紹介してくれ!」と電話するのがいいと思います。

たぶんですが、良い先生を紹介してくれると思います。

投稿者プロフィール

古川 久晃
古川 久晃
1991年12月25日生まれ:2009年に行政書士試験合格
広島生まれの広島育ち:特技・珈琲の焙煎
趣味:チェス・広島チェスサークル代表